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人生後半戦の『ターニングポイント』を前向きに!

映画史上最高齢の“お尋ね者”を演じた草笛光子さん。「これから先の人生は、アンジーみたいにわがままに生きようと思っています」【草笛光子さんのターニングポイント#2】

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藤岡眞澄

91歳を迎えた女優 草笛光子さんの最新作は、映画『アンジーのBARで逢いましょう』。2025年4月4日公開です。突然町にやってきて周りを次々に巻き込んでいく謎めいたヒロイン アンジーは、草笛さんにとってどんな存在なのでしょう。そして草笛さんの大きな転機となった50代の出会いとは? 草笛光子さんのインタビューを2回に分けてお届けする後編です。

▼前編はこちら▼

"訳アリ”ヒロインは草笛光子さんそのもの!?女優人生を支えた「母との合言葉」とは【草笛光子さんのターニングポイント#1】

草笛“アンジー”と寺尾“大家“のやりとりは温かく

リヤカーのほかにもう一つ、強く印象に残る場面がある。出会ったばかりのアンジーに無条件で物件を貸す“大家”を演じた寺尾聰さんとの共演シーンだ。

「寺尾さんは、昭和49年のドラマ『天下のおやじ』で水谷豊さんといっしょに私の息子役だったんです。それから、この2人は何かあると駆けつけてくれる芸能界の親戚。

まだ、あの大ヒット曲が生まれる前のころ、毎日ギターを抱えて私の家に来ては一晩中弾いていて。私が仕事に行くときは『行ってらっしゃい』と見送ってくれて、帰って来たら『お帰りなさい』って言うのよ。我が家の家政婦さんがご飯も出してくれていたし、居心地がよかったのかしら。

ある時、お父さまの宇野重吉さんが電話をしていらして、『草笛さん、うちの息子が毎日朝昼晩とご馳走になってすみません』って。そのうち、これ聞いといてと言って、でき上がった曲を何曲かテープに入れて聞かせてくれました」

名曲『ルビーの指環』誕生の“母”は、実は草笛さんだったのかも知れず。そんな50年にも及ぶ親交があるからこそ、草笛“アンジー”と寺尾“大家“のやりとりは温かく心地のよい空気に包まれている。

「共演するのはいつ以来なのかわからないけれど、知っている顔がいてくれるだけでうれしかったですね」

寺尾聰さんとのやりとりは温かく心地のよい空気に。

ラスト近く。アンジーは町の人々の前から忽然と姿を消す。寺尾“大家”は、草笛“アンジー”がよく座っていたBARのロッキングチェアをウイスキーグラス片手にそっと揺らす。

ゆらゆら揺れるチェアを見つめ、もういないはずの草笛“アンジー”のぬくもりを感じた寺尾“大家”はふっと微笑む。そう、目には見えないけれど、草笛“アンジー”は確かにそこに座っているのだ。

その人の存在が誰かの心に深く刻まれる、とはきっとこういうことなのだ、と胸に沁みるシーン。演じていないのに、演じている姿で観客の心を満たす草笛さんは、アンジーと同じ、ほんとうに素敵な魔法使いだ。

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