【あんぱん】朝ドラワールドとアンパンマンワールドの2つの世界をつなぐ「遊び」のような演出が楽しい
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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完全に〝ジャムおじさん〟だ!見た目もどこかそれっぽい。アレンジの巧妙さが楽しみ 朝ドラ【あんぱん】スタート「フシアワセ」にどう向き合っていくのか
『アンパンマン』原作者で漫画家のやなせたかし、そしてその妻・小松暢を主人公としたNHK連続テレビ小説『あんぱん』の第2週「フシアワセさん今日は」が放送された。
まず感じたことは、誰もが少しぐらいが触れたことがあるだろう『アンパンマン』ワールドにおいて、「フシアワセ」というワードは、カナ表記にしていることでなんらかの意図はあるのだろうが、真逆の存在のような印象を受ける。
嵩(木村優来)とのぶ(永瀬ゆずな)、まだ小学生である二人の世代の子供にとっての大きな「シアワセ」とは、やはり家族という存在ではないだろうか。嵩は父(二宮和也)を亡くし、母の登美子(松嶋菜々子)に連れられ高知の伯父・寛(竹野内豊)のもとで暮らすようになるが、登美子は嵩を置いて出ていってしまう。のぶもまた、大好きな父である結太郎(加瀬亮)を亡くしてしまう。それぞれにとっての大きな「シアワセ」の欠落……そこから第2週は幕を開ける。
二人はそんな「フシアワセ」にどう向き合っていくのか。「フシアワセ」とは何なのか。そこに向き合うことが、冒頭に述べた、やなせたかしが届けてくれたアンパンマンワールドの愛と勇気、そして幸せな世界観の根底に流れるものになっていくのではないだろうか。
この作品は、朝ドラの定番のモチーフのひとつとなっている、何かを築き上げた人の史実をもとにドラマとして仕上げていくものである。今回は、やなせたかしの人生や作品を大きな柱としながら、その妻をヒロインとしていくわけだが、ヒロインの設定が実際の小松暢と異なるものであることが、一部の視聴者にとっては気になってしまう要素になっているようだ。
小松暢は、実際には大阪生まれ。やなせと出会ったのは編集者として勤務していたころ、つまり少女時代に二人は出会っていない。いっぽうで足が速かったことから「韋駄天おのぶ」と呼ばれたり、その男まさりな性格から「ハチキンおのぶ」と呼ばれたりすることもあったそうで、そのあたりは少女時代ののぶに反映されているようだ。
史実をもとにするとはいえ、ドラマとはフィクションである。たとえばもっと古い時代を扱うことの多い大河ドラマでは、織田信長や徳川家康、坂本龍馬に新選組、平清盛、源義経といった歴史上の人物や時代が何度となく描かれ続けているが、抑えるべきところを抑えつつときには新解釈などを加えたりオリジナルキャラを盛り込んだりすることで新たなエンタテインメント作品が何度となく誕生している。朝ドラもまた、モデルとなった人物の人生をもとにアレンジを加えて作られてきたものは、『おしん』『ゲゲゲの女房』『カーネーション』『マッサン』『虎に翼』など多数存在することは多くの人が知るところだ。
オリジナルにアレンジを加えていく、中園ミホらしい手法だ
『あんぱん』では、御免与の石材店の娘で、引っ越してきた嵩とは小学生時代から出会っていたという、のぶの設定自体が大胆なアレンジだが、これはもう、ヒロインのぶの生い立ちから成長に焦点を当て史実そのままに制作した場合、のちの嵩との出版社で出会いまでかなりのストーリーを要することになるだろうし、そこに別の場所での嵩の成長を描く二拠点ドラマにすることはなかなか難しいだろうことから、史料も豊富に残っているであろう嵩の史実にヒロインを合流させるという手法は大胆でありながらこの先もストーリー性を高めてくれるであろうアレンジだと感じられる。
そして、〝フーテンのパン職人〟「ヤムおんちゃん」こと屋村(阿部サダヲ)が、アンパンマンたちを温かい目で見守る「ジャムおじさん」のごとく登場し、美味しいパンを食べさせたりしては「フシアワセ」なふたりにとってちょっとしたシアワセ、それこそ「生きる喜び」を与えてくれる存在を果たしてくれることで、やなせたかしが届けてくれた生命の素晴らしさなどの世界観へといざなってくれる存在となっている。
「ヤムおんちゃん!」「ヤムラだっての!」というやりとりが毎回のように出てきたり、重要なターンでパンをこねて焼いたり、食べたり、売ったりというほどに「パン」が最重要アイテムとして登場、早くも「あんぱん」も登場するなど、見方によっては若干くどいと思われるほどの印象づけのようでもあるかもしれない。
「ヤムおんちゃん」ばかりでなく「バタ子さん」を思わせる「ハタ子さん」(羽多子:江口のりこ)の存在や、そしてアニメ『それいけ!アンパンマン』で「しょくぱんまん」を演じる島本須美さんがご近所役で出演するというサプライズもあり、朝ドラワールドとアンパンマンワールドの2つの世界をつなぐ「遊び」のような演出は、この先も登場しそうだ。
すでに絵がとてもうまく漫画が好きで、そのいっぽうで、今週は訪ねていった先で母から「親戚の子」と紹介されるというショッキングな「フシアワセ」を自分の中で咀嚼し、母との別れを描いた絵を破り捨てることで、嵩は内面的に大きな成長と自立を遂げたのではないだろうか。両親という大きすぎる「シアワセ」を失ったものの、のぶとその一家がいて、伯父家族がいて、ヤムおんちゃんたちもいる。そういった存在によって得られる「シアワセ」だってある。
人間とは一人だけでは生きていけない。さまざまな距離や位置での「関係性」によって成長していくものであること、それを、のちの「やなせたかし」が完成していくためのエピソードに史実を混じえながらオリジナルのアレンジを加えていくのは、かつて脚本を担当した『花子とアン』で、『赤毛のアン』の翻訳という仕事を描きながら『赤毛のアン』にまつわるエピソードなどを本編に盛り込んでアレンジした中園ミホらしい手法ではないだろうか。
第10話のラスト、成長した嵩(北村匠海)とのぶ(今田美桜)が登場する。
時は昭和9年。「すでに出会っていた」世界線での嵩とのぶの青春時代は、どのように描かれていくのか。あらたな展開となる第3週を期待したい。
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