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【虎に翼】優三(仲野太賀)の最大の弱点を受け継いでいた娘。「スンッ」のない思い出とともに溝は埋まりはじめた!

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田幸和歌子

【虎に翼】優三(仲野太賀)の最大の弱点を受け継いでいた娘。「スンッ」のない思い出とともに溝は埋まりはじめた!

「虎に翼」第79回より(C)NHK

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1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

★前回はこちら★
【虎に翼】「家族会議をします」と言うところは、寅子(伊藤沙莉)らしさとある種の不器用さを感じ、少し笑ってしまう

昭和27(1952)年。新潟での地家裁三条支部支部長就任により環境もガラッと変わり、純然たる新章突入といった趣を感じさせる伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第16週「女やもめに花が咲く?」が放送された。

このいわゆる「新潟編」で寅子の前に立ちはだかったのは、想定外の(?)〝田舎〟という、ある種の異文化とのギャップである。言うまでもなく、寅子は物心ついたころからずっと、正論すぎるほどの正義が自身の考え方の礎となっており、それゆえ家族、同級生、同僚、上司、そして恩師ともぶつかることも多かった。

その象徴のようなキャラクターとして登場するのが当地の弁護士・杉田太郎(高橋克実)・次郎(田口浩正)兄弟だ。あらゆる場面で「持ちつ持たれつ」という言葉を連呼し、ここではその関係性が重要だと刷り込んでくる。日々の買い物ひとつとっても、近所の店舗から魚や野菜を届けさせると、純粋に厚意なのかもしれないが、個人の自由な意思よりもおせっかいのように感じられる「親切」だ。

こういった「ここでの当たり前」が次々寅子に押し付けられていく。もちろん決して染まる寅子ではないが、この抗えずにじわじわと浸透してくる感じ、田舎特有の人間関係の面倒臭さは、太郎二郎兄弟のうさんくさい笑顔とあいまってどこか「村系ホラー」のようにも感じられるというのは少しおおげさだろうか。

この「持ちつ持たれつ」が、本業である裁判で振りかざされ、寅子がおおいに戸惑う。つまり、よくしてやってるんだから手心を加えろと暗に要求するのである。歯痒いのが、寅子もある種「大人になった」のか、これまでなら「はて?」を連呼したあと、ストレートに反論しまくったかもしれない。しかし、愛想笑いをうかべ、いったん飲み込む。寅子も気づけば「スンッ」とする顔を身につけていた。

「虎に翼」第78回より(C)NHK

明治時代の中央集権国家体制から、新憲法によって地方自治が確立されたものの、日本という国はそもそもが田舎、村社会の集合体のような一面も極論だがあるのではないだろうか。「地方あるある」や地域ギャップがバラエティ番組の笑いとして成立するものの、たとえば今なおあるだろう結婚の際の地域間の価値観ギャップなど、根っこには「田舎」ごとの文化が支配する。

日本初の女性裁判所所長・三淵嘉子をモデルとして男性優位の社会で法曹界での女性が活躍する姿を描くものとして送り出された本作だが、前半折り返しまでにある程度その地位は確立され、女性の社会進出も少しずつだが達成されてきた。メインテーマと思われてきたことに早々にたどりつき、この先後半はどう流れていくのだろうと思っていたが、社会の中での性差と法律の話から、この国の抱える構造のようなものにこの先切り込んでいくのだとしたら期待したいところだ。

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