リリー・フランキーの語りで数年後の世界へ誘うのか【おむすび】“パート2”
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。平成青春グラフィティ「おむすび」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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きわめて個人的な肌感覚の印象ではあるが、『おむすび パート2』を見ているかのようだった。
橋本環奈主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『おむすび』第18週「おむすび、管理栄養士になる」が放送された。
このサブタイトル通り、ヒロイン・米田結は「猛勉強のかいあって」(語り/リリー・フランキー)見事難関を突破し管理栄養士資格を取得した……ところまでは、本作のこれまでの高校生活や専門学校生活など、「語りで大きくスキップさせる」という、このドラマの“得意技”がまた発動するんだろうなという想定の範囲内ではあった……が、「4年が過ぎ、平成30年、結が管理栄養士になって4年が過ぎました」は、さすがに想定を大きく超えて驚いた。
視聴者にとって、ひとつのドラマの楽しみ方、登場人物への共感の仕方として、「一緒に成長していく」「成長を見守る」という、“過程”の楽しみがあると思う。「おしんの“しん”は辛抱の“しん”」の『おしん』があまりにも有名ではあるが、いろいろな壁にぶつかったり悩んだりしながらも、そこでがんばり、時には助けられ、それでもうまくいかないことがあり、またがんばるといった姿に視聴者は共感することが多いのではないだろうか。
『おむすび』でも、もちろんストーリーの中で何度も困難にぶつかり、それを乗り越えてきたことは確かである。しかし、専門学校でいろいろなことを学んでいく過程や、子育てをしながら管理栄養士になるための資格試験の勉強ぶりなどを、もう少し一緒に視聴しながら共有して、卒業や合格を一緒に感慨深く経験したいのに、そこはまるごと省略、いきなり卒業してたり、いきなり出産してたりして数年が経過してしまっているのである(勉強については、子供を抱っこしながら単語帳をめくっている描写はあるにはあったが)。
制作意図としては、そのような「過程」以上に描きたいもの、テーマがあり、それらの過程をひとつひとつ丁寧に描く余白がないのかもしれない。そういった過程をドラマのテンプレ的なものとして、あえて描かない戦略かもしれない。しかしそれでも「たぶん週が明けたら合格しちゃうんだろうな」と思いつつもせめて、合格した! よかったね、おめでとう、結ちゃん! と一緒に喜びたかったのに、もう4年もたってしまっていた。
完成品を、さらにいえば完成品のその後を、いきなり見せられるような感覚は何なのだろうか。料理番組でいえば、煮込むなどの過程をスキップし、できたものを出すことはままあるが、完成を通り越して試食まで終わった段階に飛んでしまったような感覚、スポ根やバトルモノの作品でいえば、強大な相手に敗れたりしながらも、ひらめきや特訓によって新たな技などを獲得していくワクワクする過程、それが描かれることなく、「特訓のかいあって、新技◯◯を習得、見事勝利を飾ったのでした」と結果だけ説明されるような感覚(もちろん、過程を省略し、結果だけを見せることをうまく盛り込む作品もたくさんあるが)。そういった気分なのである。
そのような状態なので、当然新人時代のとまどいや苦労も何もなく、4年目のそこそこキャリアを積んだ管理栄養士としての日々へといきなり放り投げられてしまったような感覚になってしまったのだ。新人時代をまるごとすっとばしているため、なんとなく堂々としたたたずまいや物言いが、すっかり板についたというよりも、なんだか偉そうな人になってしまったかのように感じられるように見えたのも、「過程」をまるごとスキップして、見る側の心情が追いついていないからではないだろうか。