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「雨でも嵐でも48キロの山道を千日歩き続けました」その苦境を乗り越える方法とは?【塩沼亮潤さん】エッセイ『くらしの塩かげん』

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ゆうゆう編集部

飲まず、食わず、眠らず、横にならずの「四無行(しむぎょう)」

塩沼さんは、なぜこのような修行を志したのだろう。

「小学生のとき、NHKの千日回峰行(比叡山)の特集番組を偶然見たのです。白装束で山道を歩く僧の姿が、とてもかっこよくて。『この修行をしてみたい』という一念で、高校卒業後に出家し、修行に入りました。好奇心と探求心が、人一倍強いタイプなのだと思います」

1999年に千日回峰行を満行したが、さらに四無行という修行が待っていた。「飲まず、食わず、眠らず、横にならず」、9日間坐禅を組み、真言(仏の真実の言葉)を唱え続けるという修行だ。千日回峰行と同様、生命の危険にさらされる。

「激しい渇きは、睡眠不足や飢えとは比較にならないほど苦しいものでした。血液がドロドロになるので、心臓の鼓動は速くなり、意識は朦朧とします。それでも修行を淡々と続け、繰り返すだけです」

そんな厳しい修行を満行した塩沼さんだが、「これらの修行は、人生を登山にたとえると1合目に届いたくらい」だと語る。

「一般の方が大学や専門学校で知識をインプットするようなものです。修行の過程で得た教訓をもとに、寺を建立し、布教し、世の中に貢献する人間にならねばなりませんでしたから。そして人生の登山は、今もまだ道半ばなのです」

56歳、病もした。今思う「長生きしよう」

2003年、塩沼さんは故郷の仙台市秋保(あきう)に福聚山慈眼寺を開山した。お勤めの傍ら、畑を耕し、料理を作り、犬と散歩する。そんな日々から生まれた思いが本書にはつづられている。仏教や人間関係、油揚げカレーの作り方のコツまである。50代の今だからこそ生まれたエッセイだと話してくれた。

「開山当初、私は何の実績もない田舎のお坊さんでしたから、投資できるものは体と時間しかありませんでした。人の何倍も体を動かし、睡眠時間を削って働いてきたのです。でも気づけば50代。病気も経験し、体力も衰えてきました。生老病死は避けられない定めと知ってはいましたが、若い頃には十分理解できていなかったのだと思います」

「人生の塩かげんを見直す時期がきた」と思ったという。

「年齢に見合う生き方に人生をチューニングし直す、いい機会ととらえています。最近では、長生きしたいなぁという願いが生まれましたので睡眠時間を1日3時間から7時間に増やしました(笑)」

困難を前向きにとらえることは、厳しい修行で身につけた。

「不満をもてば、今日も明日も不満をもち続けることになります。そんな人生は怖いので、どんな状況も笑顔で受け止めたいと思います」

PROFILE
塩沼亮潤さん

しおぬま・りょうじゅん●福聚山慈眼寺住職。大峯千日回峰行(おおみねせんにちかいほうぎょう)大行満(だいぎょうまん)大阿闍梨(だいあじゃり)。1968年宮城県生まれ。高校卒業後、吉野山金峯山寺で出家得度。99年大峯千日回峰行を満行。2003年に故郷の仙台市秋保に慈眼寺を開山し現住職。

※この記事は「ゆうゆう」2024年11月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/神 素子

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