【77歳、借家でひとり暮らし】「ここからの人生は楽しみしかない」ノンフィクション作家・松原惇子さん
自分サイズの家での丁寧な暮らしが生きるベースに
では、楽しく暮らすために必要なことは何だろうか。
「単純なことですが、日々の暮らしを丁寧にすることではないでしょうか。以前、禅宗の住職に仏教でいちばん大切なことは何かと質問したのですが、その答えがまさにこれでした。悟りでも真理を究めることでもなく、掃除や食事といった暮らしをきちんとすることが大事。これを聞いて、私は母のことを思い出しました」
ロボットかと思うほど規則正しく暮らし、塵ひとつ残さず掃除をして花を生けていた母。
「母は78歳で夫と死別し、生まれて初めてひとり暮らしをすることになったんです。専業主婦でしたし、どうなることかと思ったのですが、自分のリズムをつくって暮らしを見事に立て直しました。その頃の私にはわからなかったのですが、母は生活を整えることで心を整えていたんですね」
今は松原さんも規則正しい生活を心がけている。朝はラジオ体操や軽いウォーキングをし、丁寧に入れたコーヒーを飲む。
「食事もできるだけ3食規則正しくとるようにすると、その合間の時間をどう過ごそうかと前向きな気持ちがわいてきます」
ひとり暮らしを輝かせる趣味の力
自由な時間をどう楽しむか。それには、「好きなことをするのがいちばん」と松原さんは言う。
「手芸や絵画、料理、俳句……。何でもいいのですが、時間を忘れて没頭できるものをもっている人は強いですね。たまに自分の好きなものがわからないという声も聞きますが、そんなときは子どもの頃のことを思い返すといいですよ。私はレース編みや刺しゅうなどの手芸が大好きでした。大人になり仕事が忙しくなって忘れていましたが、自由な時間が増えた今、また楽しんでいます」
お花でもピアノでも自分ひとりで楽しめる趣味があるといい
もうひとつ、松原さんが子どもの頃から好きだったのが音楽だ。
「ヴァイオリンやギター、マリンバなど、いろいろな楽器に手を出してきましたが、ピアノだけは弾いたことがなかったんです。死ぬまでにはやりたいなあと思って。だからね、昨年、始めたんです。77歳の初挑戦ですよ!」
ピアノを習おうと決めた途端、自分の中に力がみなぎってくるのを感じたそう。
「こんな年で始めるんだから、バイエルなんてすっ飛ばして、私の好きな曲、3曲だけでいいから弾けるようになりたいって先生に相談しました。『エリーゼのために』から始めて、今、ショパンの『別れの曲』に挑戦中です」
2週間に一度のレッスンに向けて、気がつけば夢中でピアノを弾いている。こんな集中力がまだ自分にあることも嬉しかった。
「いつかSSSネットワークの集会で披露しちゃうかもしれません。そのとき、昔から弾けたんでしょなんて疑われたら嫌だから、今のヘタクソな状態も証拠映像として録画しています(笑)」
趣味は何でもいいが、心底、打ち込むためには、目標を高く設定するといいと教えてくれた。
「手芸だったら超大作を作るとか、英語の勉強だったら英検をとるとか。それがモチベーションにつながると思います」