【内野聖陽さん】「人間なんて、みんな変態なんです」年を重ねて寛容になれた理由とは?
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恩田貴子
この秋、『リア王』の舞台に立つ内野聖陽さん。その口から出た「人間なんてね、みんな変態なんです」という言葉に、思わずドキリ。言葉の裏に隠された“人間”へのやわらかなまなざしは、自身が演じるリアにも注がれていました。
Profile
内野聖陽さん 俳優
うちの・せいよう●1968年、神奈川県生まれ。93年、俳優デビュー。以降、舞台、映画、ドラマにと幅広く活躍中。近年の主な出演作に、ドラマ『きのう何食べた?』シリーズ、『PJ 〜航空救難団〜』、映画『春画先生』『八犬伝』『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』、舞台『芭蕉通夜舟』など。25年放映のWOWOW連続ドラマW『ゴールドサンセット』では、リア王を演じることにとりつかれた謎の老人を演じ、注目を集めた。
人間は自分で自分をダメにする生き物だから
「最近、病院に行けば『内野さん、これはもう加齢ですね』って、“加齢”のオンパレード。わかっちゃいるけど、ねぇ(笑)」
この秋、舞台『リア王』で老境の王・リアを演じる内野聖陽さんに自身の“老い”についてたずねると、豪快な笑い声とともにそんなぼやきが飛び出した。現在57歳。加齢による体の変化を受け入れ、筋トレやメンテナンスを欠かさない彼が、今最も大切にしているのが睡眠だという。
「僕はお酒が大好きで、酒が強いことが男の勲章みたいに思っていた節もあったんです。でも、適量を超えてしまうと睡眠が浅くなるんですよ。50代後半になると、それはもう如実に。だから今は、酒の喜びよりも睡眠が大事。いかに睡眠の質をよくするかが、僕の俳優人生を左右すると言ってもいいくらい(笑)」
そう言ってあっけらかんと笑い飛ばす内野さんだが、年齢を重ねる中でひとつだけ意識していることが。
「心は老いないようにしたいですよね。気持ちから老いを引き寄せないようにしたいなと。人間って、自分で自分をダメにする生き物だと思うんです。このちっこい脳みそで未来をあれこれ想像するけど、だいたい考えるのは悪いことばっかり(笑)。実はリアも同じなんです。娘の愛情を疑い、それを確かめようとしたことで、取り返しのつかない悲劇を招いてしまうんですから」
自分が“まとも”じゃないとわかってから人に寛容になれたんです
今年は、異なるキャストや演出の『リア王』が3度も上演される、異例のリア王イヤー。内野さんはこれを、“時代”の空気と捉えている。
「今、時代がすごい勢いで変わっていますよね。特にコロナ禍以降、今まで当たり前だった価値観や働き方、常識みたいなものが、一気に変容している。リアが生きている世界も、ある意味では同じなんですよ。昨日まで国を治めていた人間が、老いの不安を感じた瞬間に『はい、あなたはもう老いの世界にどうぞ。用なしです』と追いやられてしまう。
その変化にまったくついていけないリアのように、今を生きている人たちの中にも、世代や時代が急激に変わっていくことへの戸惑いがある気がしていて。だからこそ今、『リア王』が響くんじゃないかな」
その視線は、作品の根底に流れる家族の関係へと向かう。
「いちばんわかり合えるポジションにいながら、実はいちばんわかっていない。それって、いつの時代の親子も同じなんだなって。親子の関係はむずかしいですね」
最も近い存在のはずなのに、なぜ家族はすれ違ってしまうのか。内野さんは、人が抱える“正しさ”について語り始めた。
「人はそれぞれ、違う価値観をもっているじゃないですか。最近、そういうものを『こんな生き方もあるんだな』って、自然と受け入れられるようになってきたんです。若い頃の僕は、自分は“まともな人間”だと普通に思っていましたから、自分の“まともさ”“正しさ”しかもっていなかった。でも年を重ねるうちに、自分はまともな人間じゃないとわかってきて(笑)。だからですかね、人に対して寛容になってきたのは」
「人間なんてね、みんな変態なんです」と、茶目っ気たっぷりに言葉は続く。
「3年ほど前に『春画先生』という映画で、かなりクセの強い人物を演じたんですよね。そのとき、『人間は変態の集まりだ』って思ったんです。みんなどこかいびつだけど、他人に迷惑をかけなければ問題はない。そう思ったら、『いいじゃん、変態で!』って(笑)」
そんな人間へのまなざしは、『リア王』の登場人物たちの捉え方にも表れている。
「たとえば長女のゴネリルはすごくいじわるに見えるけれど、彼女なりの正しさをもってリアに向き合っていると思うんです。『リア王』の登場人物たちは、感情の振り幅が極端すぎて悪者に見えがちです。でも抱えているものをちゃんと掘り下げたら、それぞれの正しさが立ち上がってくるんじゃないかな」
そう話すうちに、内野さんの言葉はさらに熱を帯びていく。
「類型的な人物で、誰も生きているように見えなかったら作品の世界の中に入っていけないものね。それじゃあやる意味がないし、そういう芝居は俺、大嫌いだから。リアも極端なジジイだけど、救いようのないような愚かな言動の中に『自分もそうだよなぁ』とハッとさせられるような、そんなリアになるといいなと。借り物の芝居にはしたくありません。観る人が自分自身を重ねられるような、そんな芝居をつくることに僕自身もワクワクしています」
『リア王』という作品は、内野さんの言葉を借りるなら“ド悲劇”だ。だがその一言で片づけられるとは思っていない。
「悲劇という仮面をかぶっているけれど、掘り下げていくと、『これって幸せなんじゃない?』と思える瞬間がある気がして。すべてを失い、悲劇が際立ってくるほどに、逆に輝いて見えてくる光や希望がある。そんな作品の掘り起こし方をしたいですね」
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