中村獅童さんが語る「歌舞伎者だもん、アナーキーな気持ちをもっていないとね」
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ゆうゆう編集部
叩かれながら名作を作った先人たちに憧れて
伝統の世界で新たなことに挑もうとすると、当然、猛烈な批判や反撃も受けることになる。それらを一身に浴びながら、それでもなお獅童さんが歩みを止めないのはなぜなのだろう。
「僕は父親が歌舞伎俳優ではないので、やはり人さまと同じことをやっていたんじゃ生き残っていけない。ただ奇をてらっているのではなく、古典をしっかりと守りながら革新を起こすという生き方を追い求めています。こういう生き方はやはり魂をすり減らしますよ。でも命をすり減らしながらやらないと、特に新しいものはお客さまに届かないと思うんですよね」
獅童さんの父、初世中村獅童は、子役(10代)の頃に歌舞伎俳優を廃業した。獅童さんは祖母に「舞台に出たい」と頼んで稽古を始め、8歳で初舞台を踏んだが、歌舞伎の世界で後ろ盾がないということは、苦労も多かった。ひたすら地道に取り組む獅童さんに目をかけ、育ててくれたのが故・十八世中村勘三郎さんである。
「勘三郎のお兄さんにしても、先日亡くなられた(市川)猿翁のおじさんにしても、そのもっと前の先人たちも、そのときどき、叩かれても叩かれても、新しい観客層を開拓して、後に名作と呼ばれるものを作ってきた。そうした方たちの生き方に、僕はどうしても憧れるんです」
その勘三郎さんが作った、江戸時代の芝居小屋を再現した平成中村座が、昨年初めて新作に挑んだ。宮藤官九郎さん作・演出の『唐茄子屋 不思議国之若旦那』(とうなすやふしぎのくにのわかだんな)である。これが2024年1月5日(金)より、シネマ歌舞伎で再び観られる。古典落語の「唐茄子屋政談」に「不思議の国のアリス」のエッセンスが入って繰り広げられるパラレルワールドで、獅童さんが演じるのは大工の熊。勘九郎さんとの早口の掛け合いも見どころのひとつだ。
「僕は後から稽古に参加したので、最初からフルエネルギーで行ったんです。なので『もう一回やってください』って言われたときに『できません』と言ったら、『もうやりませんって言ったの獅童さんだけです』って(笑)」
現代劇や映画ではちょっとコワモテの印象の獅童さんも、ここではコミカルでかわいらしくもある。
「一度ご覧になった方は、大スクリーンで観て、また再発見があるかもしれないし、シネマ歌舞伎から入って興味をもって劇場に来ていただくというのもありだと思います。何かそうやって広がっていくといいですよね。まっさらな気持ちで観に来た人たちには、あれこれ考えずに、素直に楽しんでもらえたらいいなと思います」