【坂東玉三郎さん】「いいと思ったら終わり」 養父からの教えを胸に、今なお芸を磨き続ける
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ゆうゆう編集部
役には演じる人の人生がにじみ出る
玉三郎さんはこれまで、るんを七度演じているが、そのうち五度は伊織役が仁左衛門さん。息はぴったり。
「とはいえ、仁左衛門さんとは『この芝居をどうとらえるか』なんていう話はほとんどしないんです。仁左衛門さんもあれだけのキャリアをおもちの方で、作品に対してはご自身の解釈がおありですから」
夫婦の別離のきっかけとなる下嶋を演じているのは、今は亡き十八世中村勘三郎さん。
「勘三郎さんと私は親しかったし、仁左衛門さんと勘三郎さんもとても仲がよくて。収録公演では『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』という別演目に3人で出ていたこともあり、『ぢいさんばあさん』にも『じゃあ僕が出ようか』とおっしゃってくださいました。勘三郎さんの下嶋には哀しみが感じられます。役って、演じる人の人生が出てくるものなのだと思います」
歌舞伎の舞台公演を映画館のスクリーンで楽しむことができる「シネマ歌舞伎」。本作は2010年に上演された舞台映像を収録している。
「記録用映像をそのまま上映することには、私はあまり賛成できませんでした。ちゃんとシネマ歌舞伎用の編集、しつらえをするのであればいいという私なりのこだわりを反映していただいて、今の形に。作品にもよりますけれども稽古風景やインタビューなど、シネマ歌舞伎じゃなければ観られない映像も作ってきました。でも、こうして約20年やってみると、作品として残せて、お客さまにも観ていただけてよかったなと思います。それこそ今はもう映像の中でしか勘三郎さんが観られないわけですから」
その時間だけはすべてを忘れて物語の世界に浸ってほしい
最後に読者の皆さんへ、こんなメッセージをいただいた。
「2024年は元日に能登半島地震が起こり、心痛む幕開けとなりました。今も苦しい思いを抱えている方がいらっしゃると思いますが、それでも私たちはそれぞれに生きていかなければなりません。エンターテインメント、特に演劇の意義は、開演から終演までの間だけはすべてを忘れてそこにいられる時間だと思います。ある意味、人間の心のよりどころのような部分もあるのではないでしょうか。新しい年がどうなるかはわかりませんが、この作品を観ている間だけでも日常とは違う世界に浸って楽しんでもらえたらと思います」
【INFORMATION】シネマ歌舞伎 『ぢいさんばあさん』
片岡仁左衛門、坂東玉三郎 出演! 森鷗外原作の名舞台を映画館で!
森鷗外による同名短編小説が原作。幸せに暮らすおしどり夫婦が、ある事件をきっかけに37年もの間離れ離れになった末に再会する。ドラマチックな物語ながら、さっぱりと簡潔に洗練された作品だ。この小説に感銘を受けたのが、「昭和の黙阿弥」と称される劇作の名手・宇野信夫。原作に敬意を払いつつ潤色し、観客の心を揺さぶる良質な人間ドラマにして歌舞伎舞台化。夫婦役をつとめるのは、歌舞伎界のゴールデンコンビ、片岡仁左衛門と坂東玉三郎。初々しい若夫婦と37年後の老夫婦姿を、ときに愛嬌たっぷりに、ときにしみじみと、息ぴったりに演じ分ける。心にしみる2人の名舞台を映画館の大スクリーンで楽しめる。
原作/森 鷗外
作・演出/宇野信夫
出演/片岡仁左衛門、坂東玉三郎、中村芝翫、片岡孝太郎、中村鴈治郎、中村勘三郎 他
製作・配給/松竹
2025年1月3日(金) 東劇・新宿ピカデリー 他 全国公開
©️松竹株式会社
※この記事は「ゆうゆう」2024年11月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
撮影/中村彰男 取材・文/本木頼子
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