朝ドラ【あんぱん】を見て、戦争と平和を想う。現実のニュースとドラマが重なり、やるせなさが心を包む
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田幸和歌子
時には卑怯者にもならなければ……
正義とは争いや戦いによって変わるものではないこと、そのような場で行使される力は人間の本質には何の意味もなさないこと、そんなことを今週の展開によって考える中で行われた、アメリカによるイラン核施設への攻撃の報は、ドラマと現実が入り混じり、どうにもやるせない気落ちに包まれてしまう。
戦争の理不尽さは、かつての嵩の同級生でもあった連隊の同僚・岩男(濱尾ノリタカ)と中国人少年・リン(渋谷そらじ)とのエピソードも鮮烈だった。出征後に生まれた実の息子の顔もまだ見られていない岩男は、我が子のようにリンを可愛がり、前記した紙芝居『双子の島』の発想のもとにもなった二人は、国境や年齢、立場を越えた友情が生まれているようだった。
しかし、撤退時に別れを告げた際、りんは岩男に向けて銃を発砲、岩男は命を失ってしまう。実は岩男の部隊はリンの両親を射殺しており、その敵討ちのような格好となった。そんなリンだが、岩男への好感は本当だった。しかし、それでも引き金をひかねばならない。これが戦争、これが生きるということだ。
「卑怯者は忘れることができるが、卑怯者でない奴は忘れられない。お前はどっちだ?」
先輩の八木(妻夫木聡)の言葉が嵩の胸に痛烈に響く。生きるということは、時には卑怯者にもならなければならないことだ。
そんな嵩は空腹による極度の栄養失調で倒れてしまう。生死をさまよう夢の中、清が現れ、こんな惨めでくだらない戦争を起こしたのは人間だと唾棄し、こう続けた。
「でも人間は、美しいものをつくることもできる。人は人を助け、喜ばせることもできる。いいか、嵩。お前は父さんのぶんも生きて、みんなが喜べるものをつくるんだ」
生きて、生き抜いて、人を助け喜ばせる。清が示してくれた「生きる」意味を胸に目を覚ました〝たっすいが〟の嵩は、自分が生きる意味、「何のために」「何をして」を見つけられたのだろうか。
8月15日。終戦。「玉音放送」を聞き、蘭子(河合優実)は天に向かって言った。
「やっと終わったで、豪ちゃん」
それぞれの戦後がはじまる。
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