【認知症母との介護生活#25】もう限界…でも“その行動ひとつ”で、母を見る目が変わりました
60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。
▼「認知症母との介護生活」マンガ 1話から読む▼
>>想像の遥か上を行く発想をする母に、考えたことは?【認知症母との介護生活#1】母と一緒に夕食の準備
母の認知症は
ここのところ 急激に進んでいる
例えば
毎日 一緒に作る夕食で
つい この間まで できていたことが
今日は できなくなっている
野菜の名前が わからなかったり
冷蔵庫に入れるべきものを
冷凍庫にしまったり
食器を片付けてもらうと
結構 自由気ままに入れちゃうし
あれ~ またやっちゃってるよ
と 面白がれれば
それは それで
日常の ちょっとしたエッセンスにも
なり得る
のかもしれない けど
そう 受け止めるには
こちらに
ある程度の余裕が 必要で
でも
いつもいつも 余裕があるわけじゃ
ない
例えば
マンガに描いたように
夕飯の準備の 最後の最後
その日 私は
手の混んだものを 作ってしまって
夕食の時間が
いつもより 遅れ気味
気持ちが ちょっと焦っていて
それでも
サビた頭を フル回転させ
手順を考え
お味噌汁と ご飯と おかず
それぞれを 同時に 適温にして
あとは 盛り付けるだけ
という状態に
やっとやっと持っていった 段階で
食器棚の前で
母に もたつかれたのだった
我が家の食器棚は
運の悪いことに
その前のスペースが とても狭い
人が ひとり 立っていたら
他の人が 食器棚に触れることは
不可能だ
母に お椀を取るように
頼まなければよかった
後悔の思いが 頭をよぎる
でも 今更
やっぱり いいわ
と言って
私が 母を押しのけて
お椀を取ったりすることは
母のプライドを 傷つけるだろう
しばらく 待った
心を落ち着かせるように
深呼吸も してみた
でも 母は
棚の中の食器を 一つ 一つ
確かめるように 触れている
お椀が どれか
わからなくなったのかもしれない
もしかして それ以前に
何を探しているのか
わからなくなったのかも
その間にも
食べ物は どんどん冷めて
おいしく食べられる時間が
過ぎていく
イライラが募る
すると
母が
突然 歌を歌いだした
♪薩摩よいと~こ~ 一度はおいで~
どっこいしょ♪
地名を 勝手に
自分の故郷に 変えている
口が動き出した 結果
手が 止まってしまった
多分 頭も
完全に 止まっただろう
ちっ
私は
思わず 舌打ちしてしまった
そんなことをする自分に
一瞬 びっくりしたけれど
その行為で
感情のストッパーが 外れてしまった
母に対する イライラが
急激に 膨らみ
もう 深呼吸程度では
心を落ち着かせることは できない
目の前の 母の背中が
私の行く手を遮る
巨大な岩のようにしか 見えない
どうして 私のすることを
いちいち 邪魔するの
ただでさえ 振り回されてるのに
私は
その岩を どかそう と
勢いよく 手を伸ばした
母を傷つけようとする 私の手が
母に触れた 瞬間
なぜだろう
その手は
母を 抱きしめたのだった
子育て中
私は 我が子を
たくさん ハグしてきた
愛おしい時も 憎たらしい時も
アメリカに暮らしていたせいか
子どもが
かなり 大きくなってからも
特に 娘は
なにか 心が乱れることがあると
よく
ママ ハグ~
と言いながら 抱きついてきて
そうすることで
気持ちを落ち着かせる子だった
私が子どもだった頃は
日本には
親とハグする習慣なんて 全然なくて
せいぜい 手を繋ぐくらいで
それを 別に
不満に思ってもいなかったけど
私は
小学校を卒業するくらいまで
母親のガウンを
よく 布団に持ち込んで 寝ていた
母の匂いが かすかについていて
それがあると すんなり寝られた
あの時
私も 母に
ハグしてもらってたら
きっと 安心して
ガウンの時より もっと速攻で
寝られただろう
母に 手を伸ばした瞬間
そんな 記憶の奥に沈んでいた
感情が 蘇ったのかな
そして 抱きしめてみたら
母の体温が 伝わってきて
息遣いが 聞こえて
なつかしい母の匂いが して
今まで 心を一杯にしていた怒りが
魔法のように
すうっと溶けて 無くなって
代わりに
真逆の感情が 溢れ出して
いつまでも いつまでも
このまま 抱きしめていたい
と思った
母は びっくりしたのか
しばらく固まっていたけど
20秒ぐらい経ってからか
急に 笑い出し
なんなのよ M子ったら いったい
そう言った声が
なんだか うれしそうだった
日々の 生活の中で
私が 母に対して抱く感情は
決して
プラスのものだけではないけれど
それは それ
母が
私にとって 大切な
かけがえのない存在であることは
確かで
そのひとと 共に
イラついたり
眉をひそめたり
ため息を付いたり
心配したりしながらも
同じ時を 生きる
生きてくれている
それは
子どもにとって 有り難い
きっと しあわせなことなんだろう
そんなことを 考えた夜だった
▼次回はこちら▼
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